以下、「本書」といいます。
著者紹介
著者 : 稲垣 浩之 氏
税理士・コンサルタント。2500人以上の不動産投資家の相談を受ける実績を持つ。
著者 : 中川 理 氏
不動産投資実務家。 2009年から不動産投資を始める。
この2名の共著となっております。
目次
第一章 収益計算に最低限必要な基礎知識
第二章 減価償却費の仕組みと具体的な計算方法
第三章 税金の仕組みと具体的な計算方法
第四章 「収益計算」の完成と具体的な計算方法
第五章 収益計算シミュレーションの作成
第六章 収益計算シミュレーションの分析・活用
今回の記事では、1章ずつ紹介していくという形ではなく、
つらつらと書いていく形にしたいと思います。
この本のメインはエクセルの「収益計算シミュレーション」シートです。
私もこれ欲しさに買ったのですが、結構使えます。
そのままでは少し足りない部分もあったりするのですが、
エクセルなので自分で簡単にカスタマイズできるところが良いです。
私は以前使っていたフォーマットとこの本のシミュレーションシートを合体させて、
より詳細なシミュレーションができるようにしました。
特に損益計算とキャッシュフロー計算ができる点がいいです。
損益計算とキャッシュフロー計算
キャッシュフロー計算のためには損益計算が必要なので、
「キャッシュフロー計算まで行う」ことが大切です。
損益計算の次の段階としてキャッシュフロー計算まで行って、
しっかりとしたシミュレーションをしていく必要があります。
特に損益計算で算出される「税額」については、
しっかり確認していくことが大切です。
ここを認識していないと、利益は出ているのにキャッシュフローは赤字という状況になってしまいます。
特に融資を利用して耐用年数の残っていない物件を購入する際は、
デッドクロスで苦しむことになりますので、
それなりの戦略を持っておく必要があります。
本書p20の図を次に引用します。
損益計算
【売上】-【費用】=【利益】× 税率 = 税金
キャッシュフロー
【収入】-【経費】-【税金】= キャッシュフロー
こう書いてしまうと単純なのですが、
残存耐用年数に左右される「減価償却」を加味した利益計算ができていなかったり、
それによる「税額」を計算していなかったりすると、
想定外の状況になってしまいますので、購入前にしっかり確認しましょう。
そういった観点が抜け落ちている不動産投資本がかなり多いので、
表面的な計算で止まっていると、大変です。
想定保有年数や借入期間の最後までのキャッシュフローを計算することが大切です。
法定耐用年数
建物の法定耐用年数は、用途と構造によって年数が変わってくるのはご存じでしょう。
アパートやマンションなどの「住宅」については、次のようになっています。
住宅の法定耐用年数
鉄筋コンクリート造 | 鉄骨(骨格材4㎜超) | 鉄骨(3㎜超4㎜以下) | 鉄骨(3㎜以下) | 木造 |
47年 | 34年 | 27年 | 19年 | 22年 |
中古建物の耐用年数
新築時の耐用年数の全部を経過した建物
新築時の耐用年数 × 20/100
例)ボロ戸建てを購入した場合
22年 × 20 ÷ 100 = 4.4年 ≒ 4年 (1年未満の端数は切り捨て)
新築時の耐用年数の一部を経過した建物
(新築時の耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 20 / 100
例)築30年のマンションを購入した場合
(47年-30年)+30年 × 20 ÷ 100 = 23年
残存耐用年数は17年ですが、償却できる耐用年数は23年に延長されます。
土地建物価格の按分について
土地建物一括取引の場合に、
建物価格がいくらになるのかという話ですが、本書にも次のとおり記載があります。
・売買契約書に記載の土地建物価格で按分する
・売買契約書に記載がない場合は固定資産税の評価額で按分する
買主売主双方協議して土地建物の価格の内訳を決められる場合は、
建物価格を高くすれば、保有期間中の減価償却費は高く取ることができますが、
その後売却した場合に簿価がその分減少し、売却益として課税されるため、
トータルで考えるとそれほどメリットがある方法ではないと思います。
また、仲介業者によっては売買価格の内訳を記載したがらないこともあり、
そこまで必死になって調整した方が良い内容とは思いません。
ちなみに国税庁HPでは土地建物一括取引時の各按分方法については、次のとおり回答されています。
譲渡時における土地及び建物のそれぞれの時価の比率による按分
相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分
土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含みます。)を基にした按分
国税庁HP
個人の税金
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
税金についてはサラっと流す程度に触れたいと思います。
個人所得税は所得金額が900万円を超えると33%という税率になり、
さらに住民税10%が加算されると43%の税負担になります。
また、個人事業税が別途必要になります。
広島市の場合、5%(控除290万円)ですので、
所得1000万円の場合、税額35.5万円で、所得に対して3.55%の割合になります。
所得税・住民税・個人事業税を合算するとかなり税額が高いですね。
この辺りの所得水準になる場合は、法人を利用して分散することを検討した方がよいかもしれません。
また、減価償却が切れることで自動的に所得水準が上がって、
収入は変わらないのにさらに税金だけ増えるという事態も想定しておかないといけません。
法人の税金
中小法人の法人税実効税率
所得区分 | H31年4月~ |
年400万円以下の所得 | 25.90% |
年401万円以上800万円以下の所得 | 27.58% |
年801万円以上の所得 | 33.59% |
本書P105参照
法人に関しても国・県・市税等種類がありますが、それらを合算した税率が上記の税額表です。
所得が1000万円の場合、個人所得税と比べるとかなりお得な税率に見えますね。
法人の方が様々な手続きがあって大変ですが、
所得水準が高い場合には、積極的に検討すべきでしょう。
物件購入によって税率が変わる
シミュレーション時に損益計算をして、税額を算出します。
この税額は、既存の決算見込みの所得金額に、新規物件購入による損益を足して計算することになります。
新規物件の利益が大きい場合には、所得税又は法人税等の税率が変わってくる可能性があるので、
それらを加味して、物件購入のメリットデメリットをシミュレーションした方が良いでしょう。
キャッシュフロー計算のシミュレーションの重要性がお分かりいただけますでしょうか。
エクセルシミュレーションシート画面
(1)基礎情報

(2)取得時諸費用

(3)収入・売上

(4)支出・費用

(5)借入

(6)減価償却費

上記のシート画面は未入力の状態ですが、
このような設定画面が並んでおります。
入力項目としては細かすぎる部分もありますので、
ある程度省略しつつ入力していく感じでも、問題ないかと思います。
「固定資産税評価額」の入力欄がないので、
(2)取得時諸費用などに項目を作っておくと便利です。
損益・CFシミュレーション画面

ズーム

実際の売マンションの情報を基に、入手できたデータでシミュレーションしてみた画面です。
真ん中がキャッシュフローで、一番下が損益計算になっています。
このシートの問題点は重要な税金が考慮されていない点なのですが、
税金は個人・法人・所得金額によって異なりますので、
一律のフォーマットを作成することは困難です。
ですので、個々の状況に応じて1行追加して、税額欄を追加しておくと良いと思います。
もっと詳細なシミュレーションシステムもありますが、
基本的にはこのエクセルシートで借り入れ期間全体の様子が分かりますので、
十分な内容だと思います。
不足している点は簡単に追加できますので、グラフを作るなり、項目追加するなりすれば良いでしょう。
私は以前使用してたエクセルシートをこのエクセルに追加して使っています。
(8)売却

キャッシュフロー計算で納付税額が考慮されていないと、
累積キャッシュフローが実際よりも上積みされていますので、
絵に描いた餅になります。
税金が考慮されていない上記の画面によると、
保有期間5年で、表面利回り13.9%で売却すると、
売却益2000万円で譲渡税もかからないという優秀な試算結果が出ています。
おわりに
物件検討時に色々とシミュレーションをすると思いますが、
減価償却や税額についてのシミュレーションが抜けていたりしないでしょうか?
この辺りの計算は多くの不動産仲介業者はしていませんので、
購入者との感覚のズレがあると思います。
実際にどのくらいの利益が出るのかは、自分で判断しないといけません。
減価償却や税金についての説明が詳しく記載されている点でも、
シミュレーションシートも付いている点でも、 本書はおすすめです。