
久しぶりに良さそうな物件があったので融資を打診しに行ってきました。
売価の3分の2の価格で検討していたのですが、
融資が通れば可能性がありそうだったので、
唯一検討してくれそうな某信用組合に打診に行きました。
目次
物件のスペック
あまり詳細に書くと特定できてしまうので、
ざっくりと今回の検討物件をご紹介します。
- 所在地:山口県某市
- 建物:軽量鉄骨造3階建
- 築年数:29年
- 価格:1億円以上
- 表面利回り:15%以上
融資可能性を検討する
今回の検討物件の1番のネックになるのは「構造」です。
軽量鉄骨造の耐用年数は19年または27年ですので、
耐用年数の残存年数は0年です。
銀行の融資期間は耐用年数の残存年数が根拠になりますので、
ほとんどの銀行の融資期間は0。
理論的には融資不可能なのですが、
銀行によっては、土地購入資金としてみてくれたり、
建物の状態が良ければ少し伸ばしてくれたりすることもあり、
100%不可能ということはありません。
また、金額が低かったり融資期間が短ければもっといろいろとやり方があります。
しかし今回の物件の土地の固定資産税評価額は3千万円台であり、
売買価格も1億円以上です。
融資が厳しいことは明らかです。
ただ、指値の価格によっては、収益性がかなり高い物件なので、
その可能性を探って今回銀行に打診してみることにしました。
某信用組合の担当者談
正直既存の取引もないのにいきなり1億円以上貸してくれというのもどうかと思ったのですが、
以前融資を打診したときはかなり積極的で、どんどん持ってきてくれという感じだったのです。
しかし、担当者が変わったことも大きいと思いますが、塩対応でした。
今回担当者が言っていたことは次のような話でした。
- 地方の郊外エリアは最近審査が厳しい。今年全て否認された。
- 耐用年数を少し伸ばすことはあるけれども、既に切れている物件は融資できない。
- 残存年数があっても、物件の状態が悪ければ審査は厳しくなる。
- サラリーマンにはもう貸さない
- 去年の夏頃から審査が厳しくなって、コロナの影響で不動産の持ち込み件数も融資件数も減っている
とまあ、こちらが用意した資料を見ることもなく、
一通りネガティブな話をされ、そのままお引き取りくださいという感じでした。
同じ支店でここまで変わるかっていうくらいの変貌ぶりにビックリです。
銀行の融資姿勢が変わることはよくあることですし、
先日のスルガの件から引き続き今回のコロナがありましたので、
なるほどこんな雰囲気かという感じでした。
そうは言っても他行はあまり変化がなかったりしますので、
物件がハマる銀行に行けば、融資は問題なく下りると思われます。
今回の物件はどの金融機関も不可なので、無理せずに見送りです。
金融検査マニュアルの内容
金融庁が各金融機関に対して、
画一な融資基準を求めてきた「金融検査マニュアル」が令和元年12月18日に廃止されました。
その前後で地域の金融機関の姿勢が変化したという実感はありませんが、
金融機関の各支店は減少傾向にあり、
収益を上げるために本業以外の収入を増やそうと、
銀行のあり方が問われ、各銀行の創意工夫が試されています。
個人的には法定耐用年数に縛られた融資基準からの脱却をすべきと考えていますが、
法定耐用年数遵守の姿勢を金融庁は今後も崩さないのではないかと思います。
それでは(廃止された)「金融検査マニュアル」の中で賃貸不動産(マニュアルでは「収益用不動産」と記述されています)に関する記述を少しご紹介します。
賃貸ビル等の収益用不動産の担保評価に当たって
「金融検査マニュアル」より転載
は、原則、収益還元法による評価とし、必要に応じて、
原価法による評価、取引事例による評価を加えて行って
いるかを検証する。
担保評価の項目なのですが、
現実には原則「原価法」で足切りしているのではないかと思います。
原価法では土地建物の再調達価格を算定しますが、
建物の耐用年数の残存年数がない場合には、
原価法による評価では土地値しか評価が出ないことになるので、
その時点で「融資不可」の判定になっています。
しかし、
・土地建物の価格が「土地値」程度
・「土地値」≒「融資額」
であれば原価法上の評価も問題ないのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか。
土地建物の原価法評価額と融資額の乖離を見るよりかは、建物の評価が出るかどうかをみているような気がしてしまいます。
今度銀行の人に聞いてみます。
ともかく、金融庁としては、原則「収益還元評価」とのことですね。
(要注意先に該当する債権は)金利減免・棚上げ、あるいは、元本の返済猶予など貸出条件の大幅な軽減を行っている債権、極端に長期の返済契約がなされているもの等、貸出条件に問題のある債権。
「金融検査マニュアル」より転載
「要注意先」に該当する債権としてこのような債権を例示しています。
この中に「極端に長期の返済契約」とありますが、
この補足説明が次のように書いてあります。
「極端に長期の返済契約」とは、設備資金として融資している場合で、返済期間が当該設備の耐用年数を超えているものが該当するほか、資金使途等から判断して、一定期間内に返済を行うことが適当であるにもかかわらず、債務者の収益力、財務内容等に問題があり、通常の返済期間を超えた返済期間となっているものである。
「金融検査マニュアル」より転載
ここに「返済期間が当該設備の耐用年数を超えているものが該当」と書いてありますので、
耐用年数を超過した融資期間の融資が「要注意先の債権」に該当してしまうのではないか?
という見方ができますよね。
金融検査マニュアルにはこれ以外に「耐用年数」に言及した記述が見当たりませんので、
別に規定があるのかもしれませんが、まあ考え方はこういう考え方なんでしょう。
金融検査マニュアルには、次のような記述もあり、
「銀行さん、こういう姿勢、きちんと守ってますか?」
と問いたくなります。
顧客の技術力・成長性等や事業そのものの採算性・将来性を重視せず、担保や個人保証に過度に依存した対応を行っていないか。
「金融検査マニュアル」より転載
例えば、顧客の事業価値やキャッシュフローの見通し等を適切に検討することなく、融資額が不動産担保の処分可能見込額を超えるといった理由のみで融資を謝絶又は減額していないか。
また、過度に厳しい不動産担保の処分可能見込額のみを根拠として、融資を謝絶又は減額していないか。
さらに、担保価値の減少等を理由として、相当の期間を設けることなく、顧客の実情にそぐわない追加担保・保証を要求していないか。
融資を断っても証拠が残りませんから、
断るのは自由。ということでしょうけれども、
もう少し頑張ってほしいなと思うのが正直なところです。
金融検査マニュアル廃止後は?
上記金融検査マニュアルは廃止されたわけですが、
考え方そのものが変わったわけではありません。
個別の金融機関ごとにしっかり基準を作って頑張ってね、
というスタンスのようですが、
金融庁からも一応「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」というものが公表されています。
マニュアル廃止の背景については、
下記のように記されています。
これまでの融資に関する検査・監督は、各金融機関のビジネスモデルとは切り離して、特定の内部管理態勢のあり方を想定して設計されてきたため、金融機関の融資に関する様々な取組みや将来損失の的確な見積りを制約する結果となっている可能性が指摘されている。
「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」
金融機関との対話にあたっては、当局側の思い込みや仮説の押し付けを行わず、事実から出発し、事実に立ち戻り、事実を最優先することを、検査・監督の全過程を通じて徹底する。
「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」
なんかしおらしいというか、反省しているかのような文章ですが、
地方の金融機関は受難の時代ですから、いずれにしても変わらざるを得ず、
金融庁としても一律の基準を変えざるを得ないのは確かですね。
この資料には不動産に関しては次のようなことが書いてあります。
不動産賃貸業者向け貸出については、当該地域の過去の空室率や賃料水準の変動に伴って、貸倒れが増減する傾向にあることが確認された場合には、過去の実績に加え、これらの外部環境の変化をも考慮して信用リスクを推計し、金融機関が実質的な自己資本や適切な引当の水準をどのように考えているかを対話する。
「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」
外部環境の変化を示す指標には、相対的にミクロなもの(例:特定地域の賃貸不動産の空室率や賃料水準、船舶種別用船料、魚種別漁獲量等)とマクロなもの(GDP成長率、金利、為替、失業率、住宅価格指数等)が考えられるところ、指標の採用や組み合わせに関しては、将来の損失を的確に見積もるという目的に照らして、各金融機関の融資方針や融資ポートフォリオの特性等を考慮しつつ検討することが重要である。
「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」
ちょっと引用が長くなってしまいました。
単に個別の企業を財務諸表上の数字で評価していくのではなく、
外部環境の変化も注視しながら、リスクに見合った引き当てをして欲しいという感じですね。
不動産の融資については引当金の話しか出てきませんが、
全体的には、各金融機関の考え方を決めといてねという印象の文書でした。
一見柔軟に融資してほしいという感じにも思えますが、
我々からすると不動産融資の最大のネックは耐用年数縛りであるものの、
その耐用年数に関しては記述はなく、従前の考え方は変わらないようです。
各金融機関は不動産融資に過度に依存したポートフォリオを構築しにくくなってきていますので、
今まで積極的だった金融機関は少し厳しくなり、
今まで中立だったり消極的だった金融機関はそのままの姿勢、
という感じで推移するのではないでしょうか。
法定耐用年数と経済耐用年数
耐用年数は通常「法定耐用年数」を基準に算定するわけですが、
我々不動産賃貸業者からすると、「経済耐用年数」つまり、
建物がいつまで使えるのかという基準で算定してもらいたいわけです。
ただし、この「経済耐用年数」に関しては、客観的評価が難しいです。
それこそインスペクションでもして、専門家に評価してもらうのでなければ根拠がなく、
金融庁に聞かれたときに困ってしまうでしょうね。
そうはいってもきっちりメンテナンスしてあってピカピカな物件と、
何も手を付けずにボロボロの物件と、
耐用年数が同じってことがあるでしょうか?
ちなみに、面白いアンケート結果があるので次にご紹介します。

金融庁が各金融機関に実施したアンケートです。
これを見ると法定耐用年数に縛られている銀行があまりに少ないことがわかります。
「一切行っていない」という神のような金融機関もあり、
やはり世の中は広いなと思いますが、
本当にこの結果は現実を反映しているのでしょうか?
例えば、
木造新築を25年に設定するとか、
新築軽量鉄骨に30年設定するとか、
そういった内容なのではないかと思われます。
築40年の物件に20年返済で融資しているとか、そういう話ではないと思います。
以上、
色々書きましたが、あくまで私見ですので、実際の現場はきっと違う思いで仕事されていると思います。
「コロナで不動産が安く出てくるから買い時!」
と思っている方もいらっしゃると思いますが、
金融機関としてはそれほど積極的に不動産融資したいとは考えていないのではないかと思いますし、
コロナの融資で手一杯かつ目標額達成という状況だと思いますので、
掘り出し物が出ても手が届かないなんてこともあるかもしれませんよ。