
先月の話になってしまいますが、
2021年6月7日に国交省から「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」が発表されました。
法的な拘束力や効果はないものの、国から示された指針ということで、
実務的な効果は期待できます。
ガイドライン策定の背景は
大家の立場としては、
高齢者の入居者に対しては、死亡リスクの高さが気になってしまい、
選択できるのであれば、高齢ではない入居者を選択したいという心理が働きます。
このことにより、高齢者は民間の賃貸住宅には入居申し込みの時点で受け入れられにくい現状があります。
ただ、昨今の高齢社会や賃貸住宅余りの事情から、
高齢者を受け入れる仕組みの確立が急務でした。
そこで、大家にとって少しでもリスクを軽減するべく、今回のガイドラインが策定されました。
高齢入居者のリスクとは
リスクとは、今回の場合は「死亡リスク」に限定されています。
現在賃借人が死亡した場合に、賃貸借契約の解除の時期や残置物の処分については、
相続人に連絡して、個別に協議することでやり過ごしてきました。
死亡時のリスクとしては、
孤独死(死体の処理や清掃が必要になることがある)
賃貸借契約書の解除及び精算事務の遅延
残置物の法的な処理
と言ったものがあると思いますが、基本的に相続人に連絡がついて、
相続人がしっかりと対応してくれた場合にのみ円滑な処理が可能となります。
逆に言うと、相続人と連絡が取れなかったり、相続人に連絡はとれても全く対応してくれない場合には、
賃貸人の費用負担において裁判等による一連の処理をせざるを得ません。
今回のガイドラインにより、そういった賃貸人側の一方的な負担を回避できる可能性が高い事務手続きが示されましたので、
仲介会社は面倒に思うと思われますが、以前よりも安心して高齢者に賃貸できる状況になるかもしれません。
ガイドラインの内容とは
今回のガイドラインにより、
「死後事務委任契約を締結する方法」が示されました。
賃貸借契約時に、相続人等の受任者を巻き込むことにより、
賃借人死亡時の責任の範囲を明確化することができます。
なお、この賃借人の対象年齢は60歳以上の高齢者、ということになっています。
この相続人を巻き込むというところが今回のポイントでしょうね。
今回示されたガイドラインのひな型は下記のリンクに貼っておきます。
⇒ 残置物の処理等に関するモデル契約条項(新規タブで開きます)
内容としてはそれほど細かい内容ではないのですが
賃借人死亡時の賃貸借契約の解除事務の委任
残置物の処理事務の委任
といった内容で、賃借人が相続人に委任するというのが原則ですが、
相続人に委任できない場合には、
居住支援法人や管理業者が受任できることになっています。
ですので、実務的にはどう考えても管理会社が受任することになりそうです。
賃貸借契約の解除や残置物の処分は超高額になることもなく、
スムーズに進められそうですが、
相続人に請求できない場合には、家主負担になるというリスクは残ります。
なんといっても原状回復費用については高額になることが予想されますので、
このガイドラインが策定されたとしても、
相続人を巻き込めない場合には、大家は今までとほぼ同じリスクを想定する必要がありそうです。
更新時にも必要な事務かもしれない
長期入居の場合、
入居時には60歳未満であっても、入居中に60歳以上になるケースは多いと思います。
そうなると、契約の更新時に死後事務委任契約を締結したいところです。
しかし実務的に「死後」という名のつく契約書を締結するのはなかなか度胸がいります。
なので、「死」だけではなく「認知症」発症時とか、「寝たきり」になったりとか、
そういった状況と合わせて今回の死後事務委任契約の実務を考えていった方が良さそうです。
普及はもう少し先かも
今回の死後事務委任契約は、単体で別つづりで契約するにはちょっと心理的にどうかという感じがしています。
やりやすい方法としては、
上述のように、賃貸契約書の別紙という形で、「死」・「認知症」・「脳死」時、等を総合的に包括して、
賃借人の判断能力がなかったり、判断できない状況全般を包括して、
相続人を巻き込んだ形で契約を締結していく流れができると良いのではないでしょうか。
いずれにしても高齢単身者の入居希望者は増えてくるはずなので、
それに対してどうしていくか、考えておく必要がありそうです。